fc2ブログ

「夢の向こうの私とあなた」
夢の向こうの私とあなた・本編

魔術師 チュウリィ・1 夢の境界 -4-

 ←魔術師 チュウリィ・1 夢の境界 -3- →魔術師 チュウリィ・1 夢の境界 -5-

 クロクラ。
 今までに学んだどんな言語に照らし合わせても、意味をなさない言葉。
 それは、名前。

 夢の中の人間の名前だ。

 足元がふらつく。世界が揺れる。
 僕は、とっさに足を踏み出して、体の平衡を保つ。
 目の奥が痛む。耳の中に、あの。夢に出てきた鉄の怪物の叫び声がわんわんと響く。
 
 違う。そんなこと、あるわけがない。あれは夢だ。ただの夢だ。
 それに、夢の中のクロクラは。女、だった。目の前のコイツの衣装は、男装束だ。

 チビ蛮族は、僕の顔を訝しげに見てから、口を開くことなく背中を向けた。
 そのまま、小走りに立ち去っていく。

 僕はそのまま、遠ざかっていく背中を見送っていた。
 心臓が、ドキドキしている。柄にもなく、動揺していた。

 僕の夢。今朝、起きる直前に見ていた夢。
 赤い眼をした鉄の怪物に襲いかかられて終わった夢。
 その中に、確かにさっきのアイツの顔がある。

                      *
 今朝の夢の中、僕は。
 知らない世界で、学生になっていた。

 僕が「僕」だと思っているヤツは、本当の僕とは似ても似つかなくて。
 伝説の、戦士国の人間みたいに、同じ年頃の少年が集められた牢獄のような館で生活をしている。
 大人たちに見張られた、自由なんて一つもない世界で。平気なカオでヘラヘラ笑って生活している。ホントは、ちっとも平気じゃないくせに。
 
 その夢の中で「僕」は、いつもクロクラが気になっていて。
 普段は顔を隠しているけど、実は学び舎の中で一番きれいな女の子なんじゃないか、っていつも思っていた。
 クロクラは誰ともつるまなくて、いつもひとりでいて、手の届かないところに咲いているキレイな花みたいで。
 それでも夢の中の「僕」は何とか背伸びをして、その花に手を届かせて。そして。

 そして。「僕たち」は。
 ……赤い目の怪物に。

 不意に強い眩暈を感じて、僕は足を踏ん張り直した。

                          =続く=
関連記事


総もくじ 3kaku_s_L.png 夢の向こうの私とあなた
総もくじ 3kaku_s_L.png 鬼は涙を流さない
総もくじ 3kaku_s_L.png 花園で笑う
総もくじ 3kaku_s_L.png ハッピーエンドのその先に
総もくじ 3kaku_s_L.png 習作的中短編
総もくじ 3kaku_s_L.png 18世紀オペラいろいろ
総もくじ 3kaku_s_L.png つぶやきなど
総もくじ  3kaku_s_L.png 夢の向こうの私とあなた
総もくじ  3kaku_s_L.png 鬼は涙を流さない
もくじ  3kaku_s_L.png 謎の王子先輩
総もくじ  3kaku_s_L.png 花園で笑う
総もくじ  3kaku_s_L.png ハッピーエンドのその先に
総もくじ  3kaku_s_L.png 習作的中短編
総もくじ  3kaku_s_L.png 18世紀オペラいろいろ
総もくじ  3kaku_s_L.png つぶやきなど
もくじ  3kaku_s_L.png 企画と遊び
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png CD感想
  • 【魔術師 チュウリィ・1 夢の境界 -3-】へ
  • 【魔術師 チュウリィ・1 夢の境界 -5-】へ

~ Comment ~

NoTitle

交差しているのか、交差してないのか。。。
曖昧な境界ですね。
それが作品の妙となっているのでしょうね。

Re: LandMさん

コメント&読んでいただいてありがとうございます。

はい、序盤は特に曖昧さを狙ってます。
これ、なんで一つの話なの? というくらいに。

……そういうことをしてるから、ムダに長くなるわけですが(-_-;)
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。
  • 【魔術師 チュウリィ・1 夢の境界 -3-】へ
  • 【魔術師 チュウリィ・1 夢の境界 -5-】へ