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「夢の向こうの私とあなた」
夢の向こうの私とあなた・本編

女子高生 玄倉新・2 白い部屋で -2-

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 桐野くんが、この総合病院に入院するようになったのは、三日前。

 私が初めて桐野くんと口をきいた日の放課後のことだった。
 彼は私に、部活をサボって遊びに行こう、と持ちかけてきたのだ。
「部活は休めないわ」
 私はハッキリと言った。
「知らないかもしれないけど、私は部活特待なの。部活でいい成績を出すことを条件に、この学校に居ることを許されているんだから。それなのに、用もないのに部活をサボって遊びまわったり出来ない」
「へえ。玄倉って、案外バカ?」

 その時も、桐野くんは私に向かって唇を歪めてみせた。

「そんなの、学校の都合じゃん。学校の方が、部活動の実績を積むためにいい選手を集めたがってるんだろ。頼まれてわざわざこの学校に来てやったのに、何でそんなに卑屈になってるの? 玄倉ってマゾ?」

 正直、私はビックリした。そういう視点は自分にはなかった。
 わずかばかりの才能を身代金に、施しを受けている。そんな感覚しかなくて。

 だけど、桐野くんの見方でいけば。私は、学校側がお金を払ってでも自分の傘下に入れたい優秀選手なわけであって。
 私が部活で好成績を上げることを代価に学校に在籍している事実は変わらないけれど。見方一つで様相は百八十度変化する。

「そんなこと、思ってもみなかった」
 私は気が付くと、素直な気持ちを口にしていた。
「桐野くん、すごいね。ポジティブなんだ」
「あのね。自分を不当に安く売っても仕方ないだろ。玄倉の方が卑屈なの」
 桐野くんは呆れ顔で言った。
「で、どうするの。行くの? 言っただろ、今日はお前、僕のドレイだよ。僕が来いって言ったら、ゴチャゴチャ言わずについてくるのがフツウでしょ」

 出た。ドレイ。別に私は、一度もその関係を承諾したとは言っていないのだけれど。
 だけどその時の私は、ちょっとだけ彼と一緒に、好きなだけ羽根を伸ばしたいと言う気分になってもいて。

「ううん、ダメ。やっぱりダメ。私が契約に縛られてることには変わりないもの。まだ結果も出してないのに、勝手に遊び回るわけにいかない。桐野くんだって、バスケうまいのにもったいないよ。ちゃんと練習しないと」
「あ、僕のプレイ見ててくれてるんだ」
 桐野くんは機嫌よく笑った。
「何、玄倉。興味なさそうな顔して、僕のこと見てたんだ。いつから? そういうことなら、もっと早く言ってくれればいいのに」

 いつから、と聞かれれば、最初から、と言わざるを得ない。
 同じ体育館の中、バスケ部のコートで歓声が上がると、そこには必ず彼の姿があったから。それくらい彼は目立つ人だし、私が彼の活躍ぶりを知っているのはおかしなことでもなんでもない。
 むしろ、弱小柔道部の私のことを彼が知っていたことの方がビックリだったのだけれど。

「じゃあさ。少しだけ。部活はちゃんと出るから、終わったら一緒に夕飯を食おう。二人でさ」
 桐野くんはちょっと強引にそんなことを言った。
「部活に出るんなら、文句はないだろ。それとも玄倉は、特待生は寮のメシでなくちゃ食べられない、とか言うわけ?」

 そんなことは言わないけれど。
 強いて言えば、寮のご飯はタダだけど、外で食べればその分お金がかかるってこと。
「それくらい、おごるからさ」
 と笑う桐野くん。
「ね? いいだろう。急いで食べて帰ってくれば、寮の門限にも間に合うしさ」

 そう言われると、それ以上断る理由も私にはなく。
 ただ、おごらせるのは悪いので、自分の分は自分で支払うと言った。

                              =続く=
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~ Comment ~

NoTitle

ここまで読みました。面白いですね(^^)

恋愛ものの王道ですね(^^)

やっぱりライバルキャラとか出てくるんですか? そいつも楽しみ(^^)

期待してますよ~♪

Re: NoTitle

ポール・ブリッツさん、コメントありがとうございます。

お読みいただきありがとうございます。
学園の王子様(実はドS)と、一見地味な恋愛オンチの女の子。
よく考えてみると、鉄板な設定ですね! (←あまり考えてなかった

ライバルキャラも……いますよ、一応。うん。(←アヤシイ

萌え要素あるじゃないか。ということは、後は私の腕次第(汗)

ここに、私の「ダメキャラ萌え」という属性と、「女子力低い」というスキルがどうミラクルを起こすか(笑)
楽しんでいただけるように、頑張ります!

NoTitle

奨学生とはそういうもので。
一面で評価してくれたらいいのです。
要するに結果ということで。
私も国立大学に合格したので、もとは払ったと思います。

Re: LandMさん

コメント&読んでいただいてありがとうございます。

才能を評価されたのだから、本来誇っていいことだと思うのですが。
人に指摘されるまで、「そんなこと思ってもみなかった」のが、この子の抱える問題なのですよね。
うまくその辺りをクリアーできるようになればいいのですが。

おお桐野君入院ですか?

いったいどうしたのやら?現在回想シーンですね。

うん?柔道部弱小なんですね。てっきり特活だから強豪校だと思いました。スカウトと言うのは強豪校がよくやりますよね?

そういえばうちの県も翌年から推薦入学に陸上部に推薦に入ってきた子が何人かいました。別にたいして強くもないですけどね。彼ら、彼女らは卒業後は普通に進学や就職をしました。

Re: 想馬涼生さん

コメント&読んでくださってありがとうございます。

この章、ちょっと回想シーンになります。今見ると、構成が悪いですね(^_^;) 読みにくくてスミマセン。

柔道部は、これから力を入れようとしているところなのだと。
脳内設定ですが、新ともう一人が、柔道部の初代特待。おそらく、有名選手か何かをコーチに招聘出来たので、学校が強化をはかっているのでは。今は体育館の隅を間借りして練習している柔道部ですが、そのうち専用の道場を作ってもらえるのかもです。
その鍵は、新の大会での活躍にかかっている! とか(笑)
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