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「夢の向こうの私とあなた」
夢の向こうの私とあなた・本編

女子高生 玄倉新・2 白い部屋で -6-

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 私も別に、彼を煩わせる気はない。事故の時に一緒にいたのに、私だけ無事なのも少々気まずいし。

 ほんの、わずかな差。
 立っていた位置があと十五センチ違っていたら、私もあの車にはねられていたのではないか。
 わずかな運の差。
 それとも、誰かがあの時、私をかばうように押しのけてくれた、からかもしれない。

 私はベッドの上の桐野くんを改めて見た。右足を固めたギプス姿が痛々しい。
 アスリートにとって、怪我がどれほど恐ろしいことかは私にだって分かる。ねんざ、脱臼だってくせになれば競技に差し支える。まして、桐野くんは大切な脚を、複雑骨折してしまった。
 そんな時にかける言葉なんてないし。
 言葉がなくても通じ合えるほど、深い関係ではないし。

 「ありがとう」の一言さえ、今の彼には届く気がしなくて、言えない。

「部活」
 ずっと黙っていた桐野くんが、ようやくポツリと言った。
「何?」
 無視するのも悪いから、とりあえず聞き返してみる。
 桐野くんはいらだたしげな表情で繰り返した。
「部活。お前、何より部活が大切な特待生さまじゃなかったのかよ」

「ああ、うん」
 私はうなずきながら、空っぽの紙袋を桐野くんに渡した。
「大丈夫。朝練はちゃんと出るから」
「朝練は、って」
「いいから、洗濯物これに入れて?」
 私は促す。

「おい!」
 桐野くんの声が大きくなる。
「答えろよ。何をしにここに来てる!? 目障りなんだよ。いいから行けよ。お前の大切な部活にさ。行って、練習して、県大会にでもどこにでも行けよ」

 私は、
「こっちの方が、大事」
 と、言った。

「桐野くんの言うとおりだから。大会で成果さえ出せば、私は学校にいられるし。それだけの話」
 私は肩をすくめる。
 桐野くんが目を丸くする。

「ちゃんと、部活も頑張ってるから大丈夫」
 そんな機会さえ奪われてしまった桐野くんに比べれば。朝練がしっかりできれば、十分すぎるほどだ。

「大丈夫、って玄倉」
 桐野くんは、毒気が抜かれたような顔で私を見ている。

「とにかく、洗濯物をちょうだい。そうしたら、この部屋から出て行って、乾燥し終わるまで帰って来ないから」
 そうすれば、彼を煩わせなくて良くなるのだけれど。

                          =続く=
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